第5回
本の紹介
現代経済学の直観的方法
長沼伸一郎著 講談社
ここ数年、英国の歴史に興味を持ったのをきっかけとして、世界史の概観、英国史、フランス王朝史、神聖ローマ帝国史など、様々の歴史書を読んでいる。そんな読書の中で、この著書の事を偶々知った。元来物理学者であるにも関わらず歴史書を書いている、斬新な視点を提供する人だな、と思っていた。(「世界史の構造的理解」PHP研究所刊)
そんな「理系の発想を持った人が、経済学の事を書いた本」が本書となる。
日々、株価の上げ下げなど市場動向に一喜一憂している我々現代人は、過去の経済の動きは、歴史として理解しているものの、結果は所与のものとして与えられる。なぜ、そうなったのかは、後講釈として理屈付けされたものを、そういうものか、というように理解してわかった気になっているように思う(少なくとも自分は)。そこに、新たな視点を加えて、本質を捉えてみようとする試みが本書でなされる。しかも、大変わかり易く、だ。
この試みを支持する、支持しない、というよりは、自分たちが否応なく生きている現代経済社会を貫くベクトルは、どこを向いているのか考え直すきっかけとする事が重要なのだろうと思う。知的興味を掻き立てるアイデアを提供してくれるのが本書、というわけだ。
現代経済(あるいは経済学)に興味を持つ人なら、合わせて同著者の「経済数学の直観的方法」(マクロ経済学編、確率・統計編)講談社ブルーバックス2冊を読む(というより学習する)と、インフレターゲットやらブラック・ショールズ方程式など、経済教科書でいきなり出てくる数式や、方程式がどういう歴史を辿ってきたのか、理解できて面白いだろう。難解な数式の羅列を見ただけで、敬して遠ざけていた自分としては、救われる思いだった。