今月の1冊(22)

前回「今月の1冊」をアップした時はオリンピックの閉幕時。そして、今は北京オリンピックが開幕中。コロナ・コロナと言っている間にも着実に時は流れてしまいました。で、随分間が空きましたが「今月の1冊」です。

今回ご紹介するのは三大俳人の一人、小林一茶の伝記的小説「ひねくれ一茶」(田辺聖子作、文庫では1995年9月15日第1刷、最新は2019年6月17刷、角川文庫)です。ちなみに本書を選んだきっかけはこの1月にNHKBSで本書を原作に放送された「おらが春~小林一茶~」。このドラマは2002年1月に放送されたものの再放送で、一茶には西田敏行がキャスティングされています。

本書では俳諧の道に恥も外分もなくのめり込み、溺れ、さらに一途に、真摯に、純粋に作品を追い求める主人公一茶の姿が縦糸となっています。他方、弥太郎(一茶)は亡き父の遺言を拠り所に執拗に継母、異母弟と遺産争いを繰り返し争います。その決着後、50歳にして故郷信濃で初婚。この結婚で授かった4人の子供と妻を相次ぎ亡くし、再婚。この再婚は妻女との体のつながりにこだわるゆえか離別(と小説でなっていました)。さらに3度目の妻を迎えます。衰える自らの寂しさを埋めるかのように妻女の肉体のもつ暖かみを追い求める不自由な、不器用な、ある意味剥き出しの人間、一茶を横糸にしている作品です。

本作品が一茶の人生の史実をかなり忠実に辿っているため、一茶は小説らしくなく何度も何度も同じような愚かともいえる行動を繰り返し、話がなかなか展開しません。しかし、最後の100ページほどから恵まれなかった幼かった時代を送り、大人になってからは俳諧を追い求めるあまり要領よく生きることのできない一茶を見つめる作者の温かいまなざしと、豊富に出てくる一茶の俳句の背景が伝わってきます。多分、そのいくつかの作品は心に残るのではとも思います。

読み進んでもなかなか一茶の人生は進展しませんが、最後にはほのぼのと温かな気持ちになれる一冊です。お時間があれば一度手に取ってみていかがでしょうか。何か思うところが残る作品だと思います。