今月の1冊(14)


新型コロナウィルスの感染拡大が収まりません。特に海外での感染者数はすごいですね。ということで『ウィルスは生きている』(中屋敷均著、講談社現代新書、2016年3月発行)をご紹介しようとも思ったのですが、読了はちょっと重かった。そこで今回は海外旅行の代わりに国内旅行をGO TOを使って楽しんでもらうことを念頭に、ここ何年か人気の御朱印に絡めて『行基 菩薩とよばれた僧』(岳 真也著、角川書店、2019年4月発行)をご紹介します。

現在、御朱印は神社でももらえますが、本来はお寺の写経の受け取り。そのため、お寺では納経所でご朱印を頂くこととなります。この御朱印を頂けるお寺の縁起を読むと、必ずお寺の開山(創建)経緯が出てくるはずです。主要なパターンは時の天皇陛下の勅願(命令)、もしくは最澄(伝教大師)、空海(弘法大師)、行基、役行者による開山です。この中でよく分からないのが行基と役行者。勿論、行基は東大寺大仏様建立時に大きな助力をしたことで歴史の表舞台にも立ちましたし、役行者は山岳信仰の開祖とされる大物。そこで今回は深まる秋のお寺拝観を楽しんでもらうため、このお二方のどこがどうすごかったのかを知ってもらおうと本書を紹介します。

本書は主人公である行基について幼少時代からお亡くなりになるまでを伝記風につづります。この行基はその純粋さと行動力で庶民から天皇にまで菩薩とまで敬愛されますが、本書はそれがどうような行為に基づくものであったのかを明らかにします。また、この行基の若かりし時代の師匠の一人として役行者も登場し、役行者とはどのような人物だったのかを語ります。さらに、後半では奈良時代の大事件である「長屋王の変」や聖武天皇の悩みや人柄にも触れ、奈良時代の庶民と政治の関係についての理解も与えてくれます。
偉大な宗教家の伝記ではありますが、話のテンポも良く、仏教の難しい教義の話もほとんどないので大変読みやすく、お勧めします。

最後にお時間と根気があるようでしたら『ウィルスは生きている』もおすすめします。難しそうな遺伝子関係の部分を端折って頂いて、「哺乳類はなぜ卵ではなく胎児で子供を産めるのか?」「ガの幼虫に卵を産み付ける蜂の話」など、「ウィルス、すごいぞ!」と驚かされる事実が説明されます。こちらも摘まみ読みをされてはいかがでしょうか?