今月の1冊(30)

明けましておめでとうございます。

今年は能登半島での大地震、羽田空港での海保機と日航機衝突による海保隊員死亡・日航機炎上という大変な幕開けとなりました。被災者の方々には心よりお見舞い申しあげます。当社の富山県にある砺波工場の被害は軽微でしたが、これからの1年間、気を引き締めて行きたいと思います。

さて、「今月の1冊」も今回で30冊目。ここで趣向を少し変えて、今までの比較的新しく発刊された図書紹介に加え、「読み直しの1冊」を紹介します。出版が数十年前、かつ今でも入手可能なお勧めの1冊です。まず、最初の作品は『雲と風と 伝教大師最澄の生涯』(永井路子著、中公文庫、2021年9月改版、文庫初版は1990年)。本作品は「長岡京、平安京へと遷都を行った桓武天皇の苦悩」、「平安時代の傑出した高僧である最澄・空海の交わる思い」、そして「最澄の人となり」になります。読み始めると本書のテーマは桓武天皇かと思うくらい天皇の内面に迫ります。また、最澄と空海の関係をそれぞれのパトロンとなる「(最澄と)桓武天皇」「(空海と)嵯峨天皇」という天皇の世代交代というより、時代の流れによる変化に視点を置いて述べています。「最澄のひととなり」では、最澄という偉人を身近に感じさせます。

なお、著者永井氏は仏教学部を持つ大正大学で三年間聴講されており、仏教学的な用語が多少出てきます。ただ、必要に応じた説明が付されており、また、十分に分からなくても作品理解には大きな支障はないと思います。

初めて読む方、読み直しの方、名作は時間を超えます。当時の日本史に興味のある方、最澄・空海に関心のある方、時を経過しても輝きを失わない本書を読書対象の1冊とされては如何でしょうか?

注:写真最初は1990年出版時、次は2021年改版時のものです。