今月の1冊(15)


新型コロナウィルスで明け暮れた2020年もあとわずか。今年の年末年始休暇は外出・帰省も自粛をされる方も多そうなので、この休暇中にと少し固めだが固くない図書、『孔丘』(宮城谷昌光著、文藝春秋、2020年10月発行)をご紹介します。

本書は儒教の始祖である孔子を主人公にした歴史小説です。孔丘の孔が氏、丘が諱、孔子は尊称にあたるそうですが、著者のあとがきによると「神格化された孔子ではなく、失言があり失敗もあった孔丘という人間」を描いたとのことです。

この言葉の通り本書の中で孔丘は家庭問題の処理が不器用で、また、世渡りのためのお世辞もうまく使えない主人公として登場します。
他方で、自らの思想による理想国家創造を希求する思いは強く、そのために自らに政治の実権を任せてくれる君主を探し求める受難の旅を余儀なくされます。救いはこの師を常に愛し、この師の思いを支え続ける弟子達の存在。読んでいくと儒教の始祖というより教育者が主軸であり、まさに人間孔丘が描かれています。本書の中に「人こそ宝である、という信念の上に孔丘の学問がある。ゆえに孔丘の思想は温かい」という一文がでてきますが、まさに本書が伝えたかった人間孔子像でしょう。

また、儒者の「儒」は埋葬をふくめて葬儀を請け負う者たちを指すことや、孔丘の身長が九尺六寸に達していたこと、さらに孔丘は馬車を扱う技量や弓術にも秀でていたなどの話も出てきます。孔丘が生きていたのは今から2500年程度以前、また本書は歴史小説であることを踏まえなければなりませんが、その人物像への興味が尽きません。「論語」の代わりにとは言いませんが、年末年始の休暇中に一読されてはいかがでしょうか。お勧めします。