今月の1冊(2)

今回は安土唐獅子画狂伝 狩野永徳(谷津矢車著、徳間書店)をご紹介します。

テーマは日本画史上最大の画派、狩野派の代表的絵師狩野永徳の絵師としての成長、覚悟です。本書ではこの過程を依頼主である織田信長との絵を通した命を賭けた戦い、全く異なる出自を持つ長谷川等伯とのライバル関係を軸に書き進めています。

私がこの図書をお勧めする理由は2つ。1つは狩野派の作品といってもお寺やお城の襖絵くらいしか思いつかない日本画にあまり関心のなかった人(=私です)に、当時の絵師・画派とは何だったのか、その代表人物狩野永徳・その作品は何だったのか?がわかりやすく理解でき、当時の日本画を観ることが楽しくなります。この視点でいえばその少し後の時代の絵師になりますが俵屋宗達をテーマとした風神・雷神(柳広司著、講談社)は一押しのお勧めです。

さて、2つ目は「職に賭ける覚悟」の厳しさを感じることができます。永徳は信長の求める「魂のある絵」を画くために、家族を含めたすべてのしがらみを捨てて安土城天守閣の壁画に挑み、代表作である唐獅子を描き上げます。この絵は残念ながら安土城とともに消失しますが、後日再度描いた「唐獅子図屏風」は教科書などで誰もが一度は目にする名作です。

本書は小説という創作ですが、著者が描く絵師永徳の覚悟にはある意味「経営者の持つべき覚悟」にも通じるものを感じます。経営者も結果がすべて。業績が順調なときにはそれほど「覚悟」などというものに思いを巡らすことはありませんが、経営の一寸先は闇。経営者としての心の隙を感じさせてくれ、背筋をピンと伸ばしてくれる格好の良書としてお勧めします。