海外で地元の人と働く(1)

私は1988年7月から1995年10月までの7年3ヶ月程度を香港に駐在し、日系銀行の投資銀行部門でシンジケートローンの組成や株式の引受業務を行っていた拓銀国際亜州有限公司に所属していました。特に私の部署は香港の地場企業向けの案件を担当していたことから地元のスタッフがマーケティング・契約書関係、日本人がリスク管理と親銀行との調整を担当。人材面での現地化も進みこの地元スタッフとの合意形成が極めて重要なテーマとなっていました。

この経験が生きたのか現在でも当時同僚だった中国人・香港人とは親しい関係にあります。特に上海出身のJさんとはコンサル時代にはほぼ毎月、現在もタイル事業の関係で3ヶ月毎くらいの頻度で会食兼打合せをしています。

さて、ここからが今回のテーマです。では、語学力に乏しい私がなぜ国籍・文化・言語の違う彼らと30年弱も家族も含めた付き合いができているのかを考えていました。

1番目は「私」という主語を大事にしています。背景には「日本人は本音がわからない」とよく言われことにあります。それはネガティブなことをいうときに「本社が」とか「本部が」などとその責任を組織や外部に転嫁することが少なくないことに起因すると感じます。でもこれは自分を「本社を説得できない人=無能?」と認めるか、自分の意見を隠していると思われる可能性が低くありません。ですから極力「私は」という主語で話し、その責任を負うことを目指しました。違う言い方でいえば「分かりやすい、理解しやすい自分」になることでした。

2番目は無償の好意を受け取らないことです。中国系の人と話しているとよく「食事をしよう」「××を紹介するよ」といわれます。これは条件反射のようなもので、特段の好意を自分に感じたがゆえだとは思ってはいけません。そのため香港での会社訪問は午前11時以降と午後4時以降を避けました。大手財閥の副社長から「この時間帯に行くことは食事をねだりに行くようなもの」と教えて頂きました。また、常にイーブンな関係を目指す。お返しのできない行為は受け取らないことを心掛けました。他方、業務上でサポートを得た場合にはどんなに親しくとも必ず金銭など具体的な形で報いることを心掛けました。現在でも会食時に費用は日本では私が負担し、中国ではJ氏が負担します。アドバイス・アテンドは相互関係にあれば無料、なければ有償を徹底するようにしています。

3番目は積極的につながること。彼は来日時には必ず連絡をくれます。そんな時には土日は勿論、早朝であろうが先約のため夕食後となろうが、そのために東京大阪間の移動が必要であってもできる限り都合をつけて会うようにしています。

要は「自分の責任で話し」「厚意に甘えず」「一緒に美味しいものを定期的に食べる」関係が国境を超えた人間関係の源のような気がします。