海外で地元の人と働く(2)

今回は海外で地元の人と交渉する方法について書いてみます。

コンサル時代の受託テーマはM&A・人事制度・業務改善など何でも屋でしたが、その中で多かったテーマの一つが『海外合弁会社からの撤退交渉の企画・代行』。独立する前の案件を含めると中国(3件)、マレーシア(1件)、タイ(1件)、米国(1件)合計6案件に携わりました。結果はすべてクライアントから了解を得た条件内での撤退を実現できました。

通常、私に依頼に来る案件はクライアント企業の国際部門などとかなり長い期間交渉を行っており、相互信頼関係が微妙な状態になっているケースが少なくありません。このような状態で交渉を引き受けた場合の基本方針は『担当者相互の信頼確立』『合意可能時点におけるFairな撤退条件の事前決定』『交渉で勝ち切らないこと』の3点です。このような方針は平凡、かつ弱気のように感じるでしょうが、海外での撤退では案件終後も想定外の問題についての再交渉が必要となることがあり、『後味の良い撤退』が極めて重要です。

まず、『交渉当事者間の信頼』ができていれば相手が不愉快に感じるきわどい条件の提示もできます。そのために交渉では『私』という主語を重要視し、責任回避と感じられる可能性のある『依頼主、クライアント』などの言葉を封印します。条件を争う関係ではなく、ベストな合意点を見出すためのパートナー関係構築を目指します。

難しいのはクライアントとの合意可能条件の決定です。撤退が必要な合弁会社は日に日に状況が悪化しているのが常で、『Fairな合意条件』は合意時点によって大きく変わることをクライアントに理解していただかないと、常にタイミングの遅れた条件内容となり交渉の長期化、損失の拡大を招きます。そのためにはクライアント社内の人間関係やパワーバランスなどへの配慮により社内当事者を守りつつ、提示条件にコンセンサスを得ることが重要です。即ち、事態の悪化を前取りした条件提示により『先方にとって現時点ではより受け入れやすい内容、他方クライアント側では想定合意タイミングでの条件よりは優位な内容』を満たす双方にとってメリットのある条件に了解を得ます。

最後の『交渉は勝ちきらない』とは、先方のメンツを守り、感情的しこりを作らないで、当方が仕掛けた条件での決着を図ることです。アジアでの海外合弁会社からの撤退は『単純清算』より『先方への清算負担金付き出資金譲渡』で決着をつけることが一般的で、金銭的には先方への譲歩、タイミング・契約書では当方への譲歩を引き出し、双方がWIN&WINでのクロージングを目指します。特に合意後に必要な許認可取得手続きで再度トラブルになることがあります。金銭的条件譲渡を武器に関係当事者を一堂に集め、例え夜中になろうともその場ですべての書類上の必要手続きを完了させることが極めて重要です。一旦時間を置くと合意内容がぶれてくることも少なくなく、それを避けるためには交渉パートナーが主体となって手続きを進めてくれるような全面的信頼関係が必要です。このクロージングに最初に述べた信頼関係の最も重要点があります。