今月の1冊(10)

早いもので今日から師走。あっという間に令和元年も過ぎていきますね。

さて、今年最後の1冊は原田マハ著の風神雷神(PHP研究所)。この図書では琳派の創始者の一人である俵屋宗達を主人公とし、かれの十代頃の(空想の)活躍を描いています。

まず上巻では、当時の支配者織田信長、絵画界の最重要人物である狩野永徳との交流を通して主人公が絵画の世界に目覚めていく姿を描きます。下巻では信長の命により主人公がローマ教皇謁見に派遣された天正遣欧使節に同行したと想定し、同世代の使節団メンバーを通して彼の絵に対する思いの一層の深まりを描きます。最後には同じく同世代に生きたイタリアの天才画家カラヴァッジョとの接点を作るという極めてスケールの大きなファンタジーです。

この小説は勿論本来の宗達の生涯とは全く関係ないものですが、宗達の自由かつ独特な作品を見ると、こんな少年時代があっても良かったかと思います。

俵屋宗達の経歴等については不明な点が多く、謎に包まれています。ただ、そんな彼についてもう少しリアリティを持って知りたいという方には、同じ書名の「風神雷神」(柳広司著、講談社)をお勧めします。こちらでは琳派のもう一人の創始者である本阿弥光悦との交流が描かれます。さらに原田さんの図書で宗達を絵画に目覚めさせたこととなる狩野永徳については谷津矢車著の「洛中洛外画狂伝」(徳間時代小説文庫)、「安土唐獅子画狂伝」(徳間書店)をお勧めします。

いずれにしろ安土桃山時代の絵画に関心を開かせてくれることは間違いなく、どの本からでもかまいませんのでご一読されることをお勧めします。