今月の1冊(3)

この写真は今回推薦したい1冊である「大正の后」(植松三十里著、PHP文芸文庫)です。

さて、天皇陛下の退位、皇太子さまの即位に関するスケジュールや式典の話が新聞紙上でも報ぜられていますが、このタイミングを合わせて明治・大正・昭和・平成の4時代の天皇陛下の中でその在位期間が最も短く、そのお人柄等に関し情報も少ないこともあって誤解も少なくない大正天皇、その后である貞明皇后を主人公とする「大正の后」をご紹介します。

本図書は4年前に単行本で出版されましたが、最近文庫本でも出版されました。

主人公である貞明皇后は公家の頂点に立つ五摂家の一つ、九条家出身。皇后の父である九条道孝は戊辰の年に奥羽先鋒総督として官軍を率いて奥州に出陣、会津藩を含めた諸藩の平和裡な恭順実現を目指しました。しかし、結果は力及ばず凄惨な戊辰戦争として決着します。道孝はこの戦争を回避させえなかったことの責任を果たすべく、娘である節子(のちの貞明皇后)を当時皇太子であった嘉仁の后に選ばれることを望み、逆賊としての汚名を着せられた会津藩の名誉回復を託します。

この期待を背負った后は、同様に社会的に虐げられていた障害児童やハンセン病患者へも温かい視線を注ぎます。この視線は戦争回避への原動力ともなり、同じ思いを持つ大正天皇を后として支えます。さらには昭和の時代になってからは終戦への強い思いとして現れます。

というのが主軸ではありますが、もう一つの読みどころは「大正という時代、大正天皇の人柄、当時の天皇の権限」に関する部分です。本書は小説ですからどこまでが事実かということは別として、本書で描かれる天皇陛下の名の下で行われる軍部の独走や情報コントロールなどの現象を読むと現在日本の平和の大切さ・危うさを痛感します。

この本書が最近文書化されましたので、是非、ご一読されては如何でしょうか。