NHKで6月5日に歴史秘話ヒストリア「三十三間堂 国宝大移動 よみがえる平安の祈り」が放映されました。この番組内で本寺院建設を命じた後白河院はこのお堂で「民の幸せを祈った」のではというような解説があり、大いに「???」。確かにこのお堂には本尊を含め1001体の千手観音像、二十八部衆、風神雷神像など素晴らしい仏像が安置されています。他方、その仏像を作るために民が耐えなければならなかったであろう負担を思うと、私が持つ後白河院のイメージはこれほど大量の仏像を造らなければならないほど罪深く、我執の強い権力者に他なりません。そこでこの権力者をもう一度考えてみようと図書を探してみると、古典ともいうべき名著が簡単に見つかりました。この図書、即ち、「後白河院」(井上靖著、昭和47年6月筑摩書房刊、現在は新潮文庫で入手可能)を今回はご紹介します。
後白河院が権力を持っていた時代とは保元・平治の乱、平家の勃興と没落、鎌倉幕府成立の直前期までであり、まさに皇室権力が分裂・相争い、またこの皇室権力と武家権力とがせめぎ合った時代です。後白河院は台頭する武家勢力を競わせることにより皇室権力を維持し続けさせた人物と言えるでしょう。この権力者の素顔とは何だったのかを後白河院に直接仕えた、または間接的に仕えた計4名の身近な人物に記憶として語らしめることにより構成されている小説です。
もちろん本書は歴史的研究図書ではなく創造性をもつ小説ですが、本書を通して後白河院本人はもちろんのこと、この激動の時代を通観することができます。ページ数も多くなく、この時代のダイナミックな動きや、当時の権力構造を垣間見る1冊としてお勧めします。