今月の1冊(35)

お盆の時期になりましたね。今年は大型連休だそうです。ただ、外は凄まじいばかり。この暑さではなかなか外出もままなりませんね。数日前、信号を待っている時に聞こえた会話は、『これから屋外プールは春と秋に利用するもので、夏は閉鎖だね』とか。熱中症などにお気を付けください。

さて、今月の1冊は日経新聞などの書評でも既に取り上げられていますが、どうしても読んで頂きたいと思った『まいまいつぶろ』(村木嵐、幻冬舎時代小説文庫、2025年6月出版)を選びました。本書は第九代将軍徳川家重とそばに仕えた大岡忠光を中心とした物語です。家重は生まれた時の障害のため、言語不明瞭、手足の動作・表情表現などに軽いとはいえない障害があったことは史実のようです。この事実を踏まえ作者は大きな仮説を設定します。それは、家重には外形的な障害はあるが思考能力・精神面においては極めて健全。類いまれに優秀でさえあり、ただ他人とのコミュニケーションができないために理解されていないというものです。そして、この言語能力をただ一人補ううる人材として大岡忠光を配します。彼は遠い親戚でもある支援者大岡越前に『目にも耳にもならず、ただ口となれ』と厳命を受け、自分の意思・感情を交えず家重の言葉を伝える役に徹します。周りからの誤解や邪推にも反論せず、昼夜を分かたず365日、ただ『口』=通訳に徹します。この大岡忠光の潔さは現代に絶滅したもの??

九代将軍になれたのには八代吉宗が将来に向けて世代交代の混乱を回避するために、長子相続をなんとしても実現したかったという最大の理由だった気がしますが、吉宗の時代の処々の施策を考えると将軍職はまさにオーナー型企業経営者。その個人の能力は極めて重要だったようです。これを考慮に入れると、やはり作者の仮説はかなり信憑性が高そうです。

何はともあれ、本書を通して障害のある方々の精神的な負担の大きさや、周りの理解を得ることの難しさを痛感します。また。信頼できる人間関係とはかくも美しいかと思いました。

長いお盆のお休みの中で、ご一読をお勧めします。人間とは良いものだなあと感じることができそうな1冊です。

以上