今月の1冊(7)

今回のブログは令和最初となりますので、出版日が令和元年初日となっている「カリスマ失墜 ゴーン帝国の20年」(日経ビジネス)を採り上げます。題名には「失墜」という言葉が使われていますが、昨年来話題となっているゴーン氏の金銭上の問題への言及はほとんどなく、1999年にゴーン氏が日産COO(最高執行責任者)に就任したときから2018年に逮捕されるまでの彼の経営とはどのようなものだったのかを、当時の日経ビジネス記事を活用し時系列的に追いかけています。従って、当時のゴーン氏の一般的な高い評価が反映されており、この種の本で良く見受ける「遅出しじゃんけん的」な部分はほとんどなく、彼の就任期の前半ではその経営手腕を存分に評価しています。

本書から読み取れる彼の経営手腕を一口に言うと「しがらみに一切とらわれない原価低減策とそれをより効果的にするボリューム拡大」と「それを実現する組織作りの上手さ」。いわゆる奇策・独創性というものではなく、経営再建には極めてオーソドッククスな手法をスピード感と徹底性をもって実現したことに尽きるのでしょう。この極めて常道といえる再建手法であるがゆえに「ミシュラン、ルノー、日産」の3社で就任直後から実績を上げることができたのだと思います。さらに言えば、その3社には原価を改善する余地が内部的にもあったのでしょう。

そうすると彼の経営手腕の本質は「方針を決め、徹底する力」と「組織を機能させる力」だと思います。が、これが難しい。「分ってはいるが決められない」「決めたことが実行できない」ということが中小企業の経営ではしばしば起きます。これは中小企業の規模・現場との近さゆえに「従業員」「関係者」「それぞれの人間関係」が直接見え、躊躇・逡巡がおきることに由来するのでしょう。このような悩みや問題意識を持たれる方(ちなみに私もその一人です)に、本書は中小企業の経営にあっても十分に参考となりますので、ご一読をお勧めします。