今月の1冊(12)

最近の最大の関心事はコロナウィルスでしょうか。これが理由ではないのですが、今回は中国関係の小説をご紹介します。

今回紹介する『呉漢(上・下)』(中公文庫)は歴史作品を多く書かれている宮城谷昌光氏の作品で、主人公呉漢は後漢の創始者である光武帝からゆるぎない信頼を得ていた武将です。中国の歴史小説では秦の始皇帝、前漢の劉邦、三国志の劉備玄徳などに関する作品が多くありますが、後漢については呉漢はもちろん、光武帝についてもあまり描かれておらず、前漢と後漢の関係が今一つ明確ではないかと思いますので、本書を読んでいただくと秦・前漢・(新・)後漢・三国時代の流れが明確になります。

今回私が特にお勧めしたい点は、本書の中で国家の再統一による漢王朝復活のために光武帝と呉漢は14年以上も中国国内を駆けずり回ってやっと実現した事実。即ち、中国という国家は昔も今も巨大でそれを統一・維持することに必要とするエネルギーの巨大さです。かつての日本が他国を支配しようと考えたことは論外ですが、現実の問題としては日本という海外の勢力が自立心旺盛な中国人民を支配することは如何に無謀な考えだったか痛切に感じることができます。

この視点を持っていただければ現在の中国共産党が共産党一党支配にこだわる理由が見えてきます。即ち、一旦この体制が崩れた後に予想される混乱に対する恐怖心。それほど中国とは巨大で複雑な国家であることが少し感じていただける気がします。文体・内容も読みやすく、また舞台は2000年前、占いなどに支配されていた時代でもあり、現在では薄れてしまった感のある人と人との関係にある温かみを感じます。是非、ご一読をお勧めします。